Keiの感想帳

フリーランス翻訳者Keiです。日々、感じたことを書き留めていきます。

「ぼくの伯父さん」@元町映画館

元町映画館で7月5日~18日まで「ジャック・タチ映画祭」が催されていました。

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1907年パリ生まれのジャック・タチ監督は、フランス初のカラー撮影、70ミリフィルムの使用、ビデオカメラ撮影、音声トラックのミキシングなど、常に最先端技術を使って独自の世界観を作り上げ、また、自ら俳優として映画に出ています。 

ジャック・タチ映画祭」は全国各地で順次開催されていて、タチの制作当時の意図を忠実に再現するために入念な資料の読み込みが行われてデジタル復元された6本の長編作品と短編作品が上映されています。 

私は、つい数日前に神戸での開催を知り、かろうじて「ぼくの伯父さん」と短編「家族の味見」を見ることができました。

「ぼくの伯父さん」(1958)は、第31回アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞し、世界的にヒットした作品で、鮮やかなデジタル復元版で観ることができて良かったです。 

タチ監督は、この「ぼくの伯父さん」の後、パリ東部に「タチ・ヴィル」という近未来都市を建設して総制作費15億フラン(約1000億円)を投じて「プレイタイム」(1967)という大作を撮影したものの、興業的に失敗して破産したということ。なんとも豪快。その「プレイタイム」もぜひいつか観てみたいです。

で、「ぼくの伯父さん」ですが、短編喜劇を集めたようなクスクス笑えるシーンに、高度経済成長の時代に対する風刺が軽妙に効いた、面白い映画でした。

プラスチック工場の経営者を父に持つ少年ジェラール。その母親の兄が(ジャック・タチ演じる)ユロ伯父さん。少年の家は超オートメーション化された邸宅で、この邸宅内のいろいろな「機械仕掛け」とそれを使う人の滑稽さが笑わせてくれます。一方、ユロ伯父さんは、無職で、下町のアパートで一人暮らし。何をしても要領が悪く失敗ばかりですが、ジェラール少年や町の人達に愛されている存在。

このユロ伯父さん、お見合のために開かれたガーデン・パーティや、働き始めた工場でいろいろやらかします。うっかり壊してしまったものを修復しようとしてまた別のものを壊してしまうといったドタバタ。

世の中のリズムに乗れず、空回りするユロの姿は、「モダンタイムス」のチャップリンと重なります。

また、他の登場人物の所作もどこか可笑しかったです。特に、ハイヒールをはいた社長秘書の歩き方。膝を曲げずにロボットのようにチョコチョコと社内を動き回る姿は私のツボに入りました(笑)。なんとも愛嬌があって、可愛いい。 

洒落てて印象に残ったシーンもたくさんあったのですが、ユロ伯父さんがアパートの入口から最上階の自分の部屋まで階段や通路を歩いて移動する様子をアパートを正面にして固定したカメラで撮影しているシーンもその一つ。通路の窓越しにユロの上半身や脚がときどき見えるだけなのですが、見えない部分、他の住人と出くわしたときの互いの表情などが自然と想像で補えるんですよね。

エンディングでは、変わりゆく街の風景がさりげなく映されていて、ユロを見送った後の父と息子がかわす軽いやりとり、そして、冒頭にも出てきた数匹の犬がまた街の中を走りまわる様子が趣のあるシャンソンと共に流れます。

サラリとしたエンディングですが、いろんなことが集約されていることをジワジワ感じさせてくれました。見事。 

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元町映画館の2階の休憩場。ミニシアターの手作り感が素敵。